
「仕事があるし楽しいから一生独身でもいいや」が危険な理由
労働者の欲求

「私には仕事があるし、充実していて楽しいから、結婚はしなくてもいい」。独身男女のみなさんの中で、このように考えている方はいないだろうか。あなたは、会社に勤務することで、所属欲求や仲間意識といった「社会的欲求」が満たされている。加えて、稼いだお金を、100%自分の裁量で、自分のためだけに使うことができるという「消費の独立性」も確保している。社会的欲求と消費の独立性を確保したあなたは、現状に大いに満足し、「もう一生独身でもいいや」との考えに至っているかもしれない。
もし、あなたが資本家であるのなら、筆者は、あなたの考えに賛同する。あなたには、十分な裁量と選択肢が与えられている。結婚などは、無視しようと後回しにしようと、何とでもなろう。今のあなたは、ビジネスチャンスを逃すことなく、あなたの仕事に全力を注げばそれで良い。
しかし、あなたが、一介の労働者(サラリーマン)に過ぎないのなら、筆者は、あなたの考えに危うさを感じる。一時の社会的欲求や消費の独立性風情と引き換えに、全ての営みのベースとなる「結婚して家族を持つ」という選択肢を、いとも簡単に捨て去ってしまって、本当に良いのだろうか。
資本家の利害

資本家にとって、あなたが独身者であることは非常に喜ばしいことであり、あなたが独身者のままであり続けてくれることを願って止まないかもしれない。資本家にとって、あなたは、「労働者」としても、そして、「消費者」としても、欠かすことができない存在だからだ。
資本家にとって、労働者としてのあなたは、長期労働を厭わない有り難い存在だ。あなたは、家族を抱え、子供の養育義務等のある既婚者と異なり、組織の成長発展のために極めて柔軟に働いてくれるかもしれない。出張も厭わない、転勤も厭わない。連休の度に暇を持て余すあなたは、有給休暇すら申請しないかもしれない。もちろん、産休も育休も無い。家族がいないため、家族手当も不要だ。
そして、資本家にとって、消費者としてのあなたは、積極的に支出してくれる有り難い存在だ。あなたは、月1~2万円程度の小遣いで所帯じみてしまう既婚者と異なり、消費意欲が旺盛かもしれない。頻繁に外食し、お洒落な服を買い、国内海外を問わず旅行に出かけ、高級車を乗り回し、ゴルフを楽しみ、ジムに通い、エステに通い、消費をリードする。最近は、独身者を「お一人様消費」などと持ち上げ、もてはやす風潮もある。あなたの財布の紐は、一段と緩み、資本家が描く戦略に貢献する。
あなたは、会社に勤務することで、社会的欲求と消費の独立性を満たす。一方、資本家は、あなたに職を提供することで、あなたの労働力と消費欲に期待する。あなたと資本家の利害は、短期的には、完全に一致する。
資本家が手のひらを返す

しかし、残念ながら、資本家は、神でもなければ仏でもない。やがて、資本家は、手の平を返す。資本家は、あなたが、活発に労働し、活発に消費してくれる間だけ、あなたとの利害を共にしているに過ぎない。
あなたも十分に理解していると思うが、会社組織というものは、原則、ピラミッド構造になっている。20代30代は組織のマス層であり、ほとんど全ての構成員に座る椅子が用意されている。しかし、年齢が上がるほど、その椅子の数は減っていく。課長、部長、執行役員、取締役、そして、社長と階層が上がるに従って、その椅子の数が最終的に一つになるように設計されている。
あなたが20代後半から30代後半であるなら、経験やスキルが向上し、徐々に責任あるポジションに就き、必要な収入も得て、前途は洋々としているように映るかもしれない。しかし、あなたが40代に差し掛かる頃から、その雲行きは怪しくなってくる。椅子の数が減ってくるためだ。やがて、あなたは、座る椅子がないことに気付く。そして、あなたを含む、椅子から溢れる大多数の労働者が、閑職に追いやられていく。巷の組織で繰り広げられるリストラの状況に目を向ければわかることだが、労働者は、凡そ45歳ともなると、リストラの対象となる。つまり、あなたが45歳以上になると、今あなたが所属している組織において、あなたの座る椅子が無くなっている可能性が十分に考えられるのだ。あとは、あなたの判断となる。たとえそこが地べたであろうとも、プライドを捨ててでも、そこに居座り続けるか。それとも、違う環境を模索するのか。
いずれにしても、このタイミングをもって、資本家とあなたとの蜜月関係は終わりを告げる。資本家は、あなたの労働力は不要と判断した。あなたは、稼ぎが減少した以上、もはや今までと同じように消費することは叶わない。そして、このタイミングであなたは思うだろう。自分が信じてきた会社とは一体何だったのかと。こんなことになるのであれば、若い頃に結婚しておけばよかったと。あなたは、社会的欲求や消費の独立性と引き換えに、「結婚して家族を持つ」という選択肢を捨てた、その軽率な判断を後悔する。仕事に絶望し、結婚もできないダブルパンチ。勿論、後の祭りだ。
労働者のレジスタンス

このような状況を知ってか知らずか、昨今は、一部の労働者の、資本家に対するレジスタンスが始まっている。「FIRE(Financial Independence Retire Early、経済的自立による早期リタイア、ファイア)」だ。「資本家に搾取されるのは嫌だ」、「将来、資本家に切り捨てられることは目に見えているのだから、そうなったときに困らないように、今から準備する」。現代の資本主義の在り方に危機感を抱いた労働者が、「ミニマリスト」、即ち、必要最小限のモノだけで暮らすことで消費を抑制し、余剰資本を蓄積することで、資本家に対抗する。加えて、「フリーランス」、即ち、会社や組織に所属せず、会社や組織から自立した形で働くことで、資本家からの独立を模索する。一部の労働者は、もはや資本家が与える、社会的欲求や消費の独立性といったアメには惑わされない。自分の人生は自分で守るべく、立ち上がっている。
当たり前の「結婚」を取り戻す

そして、労働者の資本家に対するもう一つのレジスタンスが、「結婚」だ。労働者は、資本家からの経済的な独立を目指す。同時に、これまで、社会的欲求や消費の独立性の引き換えに、資本家に捧げてきた結婚に対する選択権を、いよいよ取り戻す。「晩婚?冗談じゃない」、「未婚?冗談じゃない」、「生涯お一人様?冗談じゃない」。結婚適齢期に、当たり前に、結婚する。
結婚は、家族という名の共同体を構築する動きであり、本来は、誰しもが許された、経済的、精神的な不確実性から身を守るための防衛手段だ。ところが、近年は、グローバル化の流れの中で、多様性という名のもとに、独身肯定、独身礼賛の風潮が醸成されてきた。一部の労働者は、このプロパガンダを鵜呑みにし、小銭を掴まされ、自ら結婚を否定し、いまだに独身生活にバラ色の幻想を抱いている者も少なくない。また、結婚しない理由の上位には経済的な理由が挙げられるが、これも極めて不可思議な現象だ。社会的弱者としての労働者であればこそ、早期に結婚して、家族という名の共同体を構築し、夫婦一丸となって不確実性に対処していくべきなのだが、流れは、逆方向へと導かれていた。労働者が、「お金が無いから結婚しない」と思考するのは、合理的な思考ではない。単なる思考停止の状態だ。くどいようだが、結婚は、防衛手段だ。結婚は、たとえ経済がグローバル化しようとも、技術革新が進もうとも対応できる、労働者にとって数少ないリスクヘッジ機能の一つだ。労働者の地位や収入はどこまでいっても不安定なのだから、結婚することで家族という名の共同体を構築し、リスクを分散する他ない。
上司の妨害をかわす

あなたが、一介の労働者に過ぎないのなら、仕事を優先することで婚活を後回しにしてはいけない。特に、あなたの職場の上司が資本主義の犠牲者(結婚を諦めた人)である場合は、あなたの婚活がその上司によって妨害される危険性がある点に留意しなければいけない。
結婚を諦めた上司は、家庭を持たないため、相対的に時間的余裕があり、全精力を仕事に注いでいるかもしれない。そして、そんな上司のやり方に、あなたが巻き添えを食らう危険がある。あなたは平日も遅くまで拘束され、コンパやデートにも行けない。土日も何かしらの理由を付けて出勤が命じられる。日々の仕事で疲弊したあなたは、婚活意欲が萎え、結婚意欲を失う。気付いたら、結婚を諦めた上司に完全に洗脳され、結婚を諦めた上司と同じフィールドに引きずり込まれているかもしれない。
従って、あなたは、結婚を諦めた上司を何としてもかわし、結婚を諦めた上司の口車に乗ってはいけない。上司には上司の立場があるが、あなたにはあなたの立場がある。あなたは、さっさと仕事を切り上げ、堂々とコンパに行き、堂々とデートに行く。たとえあなたが居なくても、会社や組織は回る。しかし、あなたの人生は、主役のあなたが居なければ回らない。あなたが会社の大株主でもない限り、あなたは、会社の経常利益より、自分の人生を優先すべきだ。
資本家も上司も責任をとってくれない

仕事が楽しい。これは、実に恵まれたことだ。人生が壮大な暇つぶしであることを考えると、何かしら打ち込めるものがあるというのは、とても有り難いことだ。しかし、その仕事によって、社会的欲求や消費の独立性が必要以上に満たされてしまうことは、ある意味で不幸かもしれない。仕事と結婚を天秤にかけるなどという愚行に走ってしまう危険性が高まるからだ。
仕事と結婚は、天秤にかけてどちらかを選択するような代物ではない。やはり、大前提として家族があり、家族の幸福追求のための手段として仕事があると考えるほうが自然だ。人は一人では生きていけない。仕事の充実度や給料の多寡によって、結婚や家族の適否を判断するなどという倒錯した思考など、本来ならばあろうはずがない。仕事は定年退職までの期限付き。家族は一生。あなたにとってどちらがより大切かは言うまでもない。
もちろん、大多数の独身男女のみなさんは、そのようなことは100%理解しているだろう。既に、FIREを完成させつつある独身男女のみなさんもいるかもしれない。もし、あなたが、万一、時代を錯誤し、いまだに独身貴族が最高だと考えているのだとしたら、改めて、働く意味について考えてみて欲しい。資本家も、上司も、決して、あなたの人生の責任を取ってはくれないのだから。
筆者は、あなたの婚活を心から応援している。
以上
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